top of page
what's up geeks.png
PF02.jpg

構造グループ

Toshiya Senda, Ph.D.

高エネルギー加速器研究機構
物質構造科学研究所
​構造生物学研究センター


はじめに

 

高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の構造生物学研究センター(SBRC)は、大学共同利用機関として放射光ビームライン(タンパク質結晶構造解析、バイオ小角散乱)と低温電子顕微鏡(クライオ電子顕微鏡)を第一線の研究者によって運営するとともに、利用者のサポートを行なっています。さらに、「生命とは何か」という生物学の究極の問いに答えるために、GTP代謝研究をはじめとする内部研究プロジェクトを推進しています。  

私たちの体は数十兆個の細胞で構成されており、その一つ一つに無数の分子が含まれています。これらの分子は、代謝ネットワーク、シグナル伝達ネットワーク、転写ネットワークなど、さまざまな生物学的ネットワークを構成し、これらのネットワークは互いに繋がって、ネットワークのネットワークを形成しています。このような複雑な構造は、多様な機能を持つ細胞には必須のものですし、生命の頑強さとレジリエンス的な性質の厳選とも考えられます。私は、このような生命の特性がどのようにして生まれたのかを分子の視点から理解したいと思っています。そのためには、生体高分子の三次構造情報は必須の情報です。

ただ、この究極の問いに答えるには、還元主義的方法では不十分です。一方で、全体論的手法も生命を記述するには不十分でしょう。ミクロとマクロの現象の橋渡しをするためには、両方のやり方を統合していく必要があると思われます。構造生物学はミクロとマクロの現象を橋渡しするために不可欠な研究分野であると考えていますが、新しい生物学を切り開くためには、細胞生物学、OMICS、インフォマティクス、分子進化学などの分野との共同作業が必須です。我々の研究グループでは、このような共同研究を通じて生命とは何かを追求したいと考えています。興味のある方は是非ご連絡ください。


Our Techniques
 

OurTechniques.png


SBRCは、日本の構造生物学の代表的な研究拠点の一つで、蛋白質結晶構造解析(PX)用の5本のビームラインと2本のライフサイエンス分野の小角散乱(bioSAXS)ビームラインがフォトンファクトリー(PF)に設置されています。PXビームラインでは、硫黄原子からの異常散乱を利用した(MR-)native SAD法により位相問題を解決することができます [1]。これにより、Se-Met置換蛋白質使うことなくタンパク質の結晶構造決定が可能になっています。BioSAXS分野では、SEC-SAXSだけでなく、滴定SAXSも可能で、データ処理のためのオリジナルソフトウエアも完備しています。2018年には200kVのクライオ電子顕微鏡が導入され、アカデミア、産業界を問わず、多くのユーザーに開放されています。また、SBRCには最先端機器を備えた生化学実験室があり、そこには全自動の結晶化スクリーニングロボットがあります [2]。

SBRCでは、これらの設備を用いての共同利用実験に加え、GTP-代謝関連のプロジェクトの推進や、様々な生体高分子の立体構造を決定しています。更に、これらの技術を個別に利用するだけでなく、幾つかの手法を組み合わせた相関構造解析を行うことも可能です [3]。その際には、それぞれの手法の専門家によるサポートのみならず、複数の専門家を交えて議論しながらプロジェクトを進めていくことも可能です。


GTP Project
 

GTP_Project1.jpg
GTP_Project2.jpg


生物を構成する様々なネットワークの全体像を解明するためには、遺伝子型と表現型の関係を知るだけでは十分ではありません。なぜなら、タンパク質の機能的な複雑さは、遺伝子のそれよりもはるかに大きいからです。タンパク質は、その三次構造、ダイナミクス、細胞内での局在、相互作用相手、翻訳後修飾など、非常に複雑な性質を持っているため、AlphaFold2の時代になっても、遺伝情報だけでは、細胞内での機能を包括的に理解することはできません。また、1つのタンパク質(または遺伝子)を細胞から削除すると、複数の生化学的機能が同時に失われるため、特定の生化学機能と結果の対応づけが困難で、得られた結果の解釈に曖昧さが生じ生物学的ネットワークの正確な構造を明らかにする妨げになってしまいます。このような曖昧さを減らすために、変異タンパク質や低分子量の阻害剤(以後、分子ツールと総称)を用いて、標的タンパク質の生物学的機能をより詳細に調べることが一般的に行われてきました。しかし、生体高分子の生化学的機能の1つ1つを合理的に制御することはそう簡単ではありません。

私たちは、GTP代謝研究を進める中で世界に先駆けて細胞内GTPセンサー(PI5P4Kβ)を発見しました [4]。興味深いことに、PI5P4KβはATPとGTPの両者を用いてリン酸化反応を触媒することができますが、ATPとGTPの結合部位はほぼ同じであるため、単純な変異でATP依存性の触媒活性とGTP依存性の触媒活性を分離することは困難でした。しかし、PI5P4Kβが細胞内のGTPレベルを感知して細胞応答を引き起こすという我々の仮説を証明するためには、この2つの活性を明確に分離することが必要でした。この問題を解決するために、私たちは高分解能の結晶構造情報を用いて、GTP依存性活性のみを欠くPI5P4Kβ変異体タンパク質を設計することで仮説の証明に成功しました [5]。この結果は、原子分解能の構造情報を使うことでタンパク質の機能を精緻に制御することが可能であることを示しています。

細胞内でのタンパク質の機能解析のためには、阻害剤開発も重要です。阻害剤は標的タンパク質を短時間で不活性化することができるため、その生物学的効果は適応現象の起きる変異細胞を用いた実験とは異なります。さらに、阻害剤開発における重要課題として、アイソタイプ特異性を持つ阻害剤の開発があります。アイソタイプを生み出すような遺伝子の重複は、生命の複雑さの起源であるとも考えられるため [6]、アイソタイプの機能多様性は我々の研究にとって極めて重要な課題であると言えます。私たちはPI5P4Kのアイソタイプ特異的な阻害剤開発も行っています。以上のように、我々のグループでは生体高分子の三次構造を原子のレベルで明らかにすることで、分子ツールの作成に貢献したいと考えています。

これまで述べてきたように、対象となるタンパク質の活性状態の三次構造を明らかにすることで、そのタンパク質の生化学的機能を精密に阻害する高性能分子ツールを設計することができると考えられます。このような分子ツールがあれば、標的タンパク質の生物学的機能を明らかにすることができますが、標的タンパク質の下流のシグナル伝達や代謝経路を明らかにすることは簡単ではありません。生物学的ネットワークの地図を完成させるためには、OMICS、バイオインフォマティクス、分子進化学など、他の生命科学研究者との共同作業が必須です。構造研究は、このような協力関係なしには生物学の一部とはなり得ません。一方で、構造研究はこのような共同研究の中で、非常に強力なツールとなり得ます。我々のGTP研究チームは、統合的な生物学研究のための理想的な共同研究の一つであるという自負を持っていますし、この共同研究によりGTPセンサーの新しい生物学的機能とシグナル伝達経路を明らかにしてきています(準備中)。GTPは細胞活動を制御する中心的な物質ですから、GTP代謝は、行動、心理活動を含む高次の生物学的現象に関連すると考えられ、我々の構造研究は、高次の生命活動を理解し、制御するための基礎となるはずです。

現在、私たちが構造的にターゲットとしているのは、PI5P4K、IMPDH、V-ATPaseなど、GTP代謝に不可欠な生体高分子群です。これらのタンパク質の進化も理解しようとしているため、さまざまな生物種をターゲットとして構造解析を進めてきました。これらのタンパク質の結晶構造は既知ではありますが、これらのタンパク質の機能構造が包括的に理解されたわけではなく、我々はタンパク質がまさに機能している現場の構造を解明しようとしています。そのためには、X線結晶構造解析だけでなく、クライオ電子顕微鏡やバイオ小角散乱なども活用する必要があるでしょう。


Automated structure analysis

 
GTP関連の構造解析に加えて、SBRCは構造生物学の自動化手法を開発しています。我々の高度に自動化された結晶化スクリーニングシステムは、30分で800の条件をスクリーニングすることが可能です。また、PXビームラインの全自動データ収集システムを使えば、1日に100セット以上のデータを収集することが可能です。
完全に自動化された構造決定を目指し、構造解析パイプラインの開発も行っています。これらのシステムの開発により、ハイスループットの構造解析が可能となり、分子ツールの創出が加速すると考えられます。
 


For young researchers
 

ForYoungResearchers.JPG


SBRCでは、タンパク質の精製をはじめ、生体高分子の三元構造を決定するための基本的な技術を学ぶことができます。また、X線結晶構造解析、bioSAXS、クライオ電子顕微鏡などの高度な技術も有しています。特に、cryo-EMは重要です。原子レベルの構造決定だけでなく、細胞内をナノレベルの分解能で観察することも可能です。これは、タンパク質の原子分解能構造と細胞小器官の原子分解能構造との間のギャップを埋めるもので、Cryo-EMとCryo-electron tomography(cryo-ET)は、細胞生物学には欠かせない技術になりつつあります。私たちは現在、クライオ電子顕微鏡による単一粒子の解析を行っていますが、近い将来、クライオET技術を導入したいと考えています。構造生物学のスキルを身につけることは、21世紀のライフサイエンスにとって非常に重要です。

       また、シンクロトロン施設のビームラインサイエンティストになるためのトレーニングを受けることもできます。ビームラインサイエンティストとしてのスキルを身につければ、世界のどこにでも就職することができます。ロボットによる自動化やAIによるソフトウェア開発は成長分野です。いくつかのシステムを組み合わせることで、構造生物学だけでなく、産業界の研究にも新たな可能性が生まれます。

[References]

[1] Kumano, T., Hori, S., Watanabe, S., Terashita, Y., Yu, H, Y., Hashimoto, Y., Senda, T., Senda, M.*, Kobayashi, M.* (2021) FAD-dependent C-glycoside-metabolizing enzymes in microorganisms: screening, characterization, and crystal structure analysis. Proc. Natl. Acad. Sci USA, in press. など

[2] Kato, R., Hiraki, M., Yamada, Y., Tanabe, M., Senda, T. A (2021) fully automated crystallization apparatus for small protein quantities. Acta Crystallogr. F77, 29-36.

[3] Hayashi, T., Senda, M., Suzuki, N., Nishikawa, H., Ben C., Tang, C., Nagase, L., Inoue, K., Senda, T.* and Hatakeyama, M.* (2017) Differential mechanism for SHP2 binding and activation are exploited by geographically distinct Helicobacter pylori CagA oncoproteins. Cell Rep 20, 2876-2890.; Mori, T., Kumano, T., He, H., Watanabe, S., Senda, M., Moriya, T., Adachi, N., Hori, S., Terashita, Y., Kawasaki, M., Hashimoto, Y., Awakawa, T., Senda, T.*, Abe, I.* & Kobayashi, M.* (2021) C-Glycoside metabolism in the gut and in nature: Identification, characterization, structural analyses and distribution of C-C bond-cleaving enzymes. Nat. Commun. in press. など

[4] Sumita, K., Lo, Y.-H., Takeuchi, K., Senda, M., Kofuji, S., Ikeda, Y., Terakawa, J., Sasaki, M., Yoshino, H., Majd, N., Zheng, Y., Kahoud, E. R., Yokota, T., Emerling, B. M., Asara, J. M., Ishida, T., Locasale, J. W., Daikoku, T., Anastasiou, D., Senda, T.* and Sasaki, A. T.* (2016) The lipid kinase PI5P4Kβ is an intracellular GTP sensor for metabolism and tumorigenesis. Mol Cell 61, 187-198.

[5] Takeuchi, K., Senda, M., Lo, Y-H., Kofuji, S., Ikeda Y., Sasaki, A. T.* and Senda T.* (2016) Structural reverse genetics study of PI5P4β-nucleotide complexes reveals the presence of the GTP bioenergetics system in mammalian cells. FEBS J, 283, 3556-3562. 

[6] Kawakami, E., Adachi, N. Senda, T. and Horikoshi, M.* (2017) Leading role of TBP in the establishment of complexity in eukaryotic transcription initiation systems. Cell Rep. 21, 3941-3956.


進行中のグラント
 

コロナ基盤CREST (研究領域「異分野融合による新型コロナウイルスをはじめとした感染症との共生に資する技術基盤の創生」)
英語名:[Fundamental technologies for COVID-19] Creation of fundamental technologies by interdisciplinary research to coexist with infectious diseases including COVID-19

 

研究課題名「GTP代謝制御によるウイルス複製阻害技術の開発」(代表:千田)
英文課題名:A novel strategy to inhibit viral replication by controlling GTP metabolism (PI: T. Senda)
2021.2.1-2024.3.31


終了したグラント
 

小柳財団
GTPセンサーPI5P4Kβの膜結合型構造の立体構造解析(代表:千田)
Structural analysis of the membrane-bound form of PI5P4Kβ
2020.4.1ー2021 9.30

GTP GEEKSでは生化学的、構造的な手法など様々なアプローチでGTP代謝研究に取り組んでいます。各ラボにおいて修士・博士課程学生(およびポスドク)を受け入れています。
GTP研究に興味がある方、修士博士課程への進学を考えている方はお気軽にContactよりお問い合わせください。

PF01.jpg
bottom of page